コラム

株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 室長代理 平井 孝幸氏

株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 室長代理 平井 孝幸氏

株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 室長代理 平井 孝幸氏

すべての企業が健康経営に取組む社会を目指して

私が株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)で健康経営を実践し始めて3年少々経ちますが、健康経営の本当の価値が見えてきたような気がします。一昔前は、「健康経営=社員の健康サポートを重点的に行う施策」として考えられていましたが、今では企業価値向上に欠かせない要素として捉えられるようなってきました。それらを具体的なエピソードとともにご紹介していきます。

そもそも私が健康経営を始めようと思ったきっかけは2015年春に遡ります。私は当時から会社員をしながらプロゴルファーを目指しており、歩き方や姿勢はもちろん食生活やメンタル面に配慮して過ごしていました。そんな生活をしていたこともあり不自然な歩き方や座り姿勢の人の多さに戸惑いを感じていました。そんなある日、顔がPCにつくのではないかというくらい猫背な人に首が痛くないか聞いてみたところ、肩こりはもちろん腰痛や冷え性にも悩んでいるそう。他にも聞いてみたのですが、同様の悩みを持っている人はたくさんいるようでした。
そこで、直感的に姿勢が変われば悩みが減らせるのではないかと思い、自作の姿勢改善ツールを姿勢が気になった近くの席の人に配り始めました。
ツールの評判は上々で、姿勢が整った人だけでなく、肩こりが改善したという人も現れ始めたのです。ちょっとしたことで人の健康は改善できるのだとわかりました。
また、その取組みを行っていた際、偶然知ったのが『健康経営』でした。社員の健康サポートが福利厚生の枠を超え、業績や株価にまで直結する可能性がある。そんなポテンシャルの高さを知り、居ても立ってもいられず「DeNA流健康経営」の企画書作りに着手しました。すでに実践されている企業へのヒアリングや健康経営に関連するありとあらゆる会合に参加。また、社内では役員やほぼ全ての職種の人にヒアリングを行い、更には全社アンケートで健康課題を明確にし、プレゼンティーイズムを算出することで健康経営に取組む価値を数値で見える化しました。
全社一丸となって推進させるためには旗振り役が必要ということも聞いていたので、会長にCHO(Chief Health Officer)という役職への就任依頼も行いました。こうして、2016年1月に健康経営専門のCHO(Chief Health Officer)室が組織図上に生まれ、健康経営を仕事にすることができました。

取組むにあたり、社員がパフォーマンスを存分に発揮できるようなサポートをしたいと考えています。とはいえ健康『経営』である以上、最小限のコストで最大の効果を出す方法を編み出し、強制感がなくいつのまにか行動変容が起きてしまう内容を意識しています。
例えば、IT企業の中核をなすエンジニアは長時間座って作業しているため、腰痛に悩まされていることが多いのが実情です。そこでIT企業初であろう腰痛の人がいない会社を目指し『腰痛撲滅プロジェクト』を開始したのです。直接的な治療ではなく、まずは専門家の力も借りながらイスに座りながらできる簡単な体操を伝えることから始めました。わずかな変化ですが反響は大きく、「20年来の腰痛が軽くなった」や、「腰痛のせいで座るのが辛かったが痛みがなくなり集中して作業できるようになった」といった社員の感想を得ることができ、生産性向上につながることがわかりました。これらの取組みはお金もほとんどかからず投資対効果が抜群です。

健康経営は従業員の健康化による組織活性に留まらず、知名度向上やホワイト企業としてのブランディングという副次的効果ももたらします。実際に健康経営に取組む様子がメディアに取り上げられることや、採用力強化につながる事例も多々あります。このように、従業員の健康サポートが企業に多くのメリットをもたらすことが知られるようになりました。

そしていまもっとも期待しているのは、健康を起点にした社員同士の新たな交流です。というのもここ最近、廊下や食堂、執務室いたるところで健康に関する話題を耳にするようになりました。全社員が利用するチャットツールでも健康をテーマにしたチャンネルでのやりとりが活発になっています。
多くの従業員が健康の大切さに気づき、自分にとってベストなライフスタイルを見つけることで仲間にシェア(時には自慢?)する。個人の活力が高まることで組織は活性化しますし、新たな出会いがイノベーション創出のきっかけになる。そうなる日も近いかもしれません。

働く人の健康をサポートすることで、企業価値向上に結びつく事例が増えていけば健康経営の価値はますます高まります。世界中と言ったらおおげさかもしれませんが、少なくとも日本のすべての企業が取組むようになることを見据えつつ、多くの企業を支えている健康経営格付の発展にも貢献していきたいと思います。



2019年3月
※役職等は対談当時のものです。