コラム

名古屋大学減災連携研究センター 教授 西川 智氏

名古屋大学減災連携研究センター 教授 西川 智氏

名古屋大学減災連携研究センター 教授 西川 智氏

SFDRRってご存じですか?

ジャカルタ、メキシコシティ、ジュネーブ、最近これらの都市に行った際に必ず耳にする日本の地名がある。それはSendai。突然「センダーイ」と言われて、こちらが戸惑った顔を見せると、「Sendai Framework」と言い直してくれる。

Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030、日本語では「仙台防災枠組」。2015年3月に仙台市で開催された「国連防災世界会議」に出席した国連加盟国187ヶ国の合意で採択された国連の公式文書の名称である。

横浜、京都、兵庫、名古屋、仙台。この四半世紀の間で、国連総会決議に基づいて日本で開催された大きな国連会議は5つある。

1997年に京都で開催された第3回気候変動枠組条約締結国会議(COP3)の成果文書「京都議定書」のことは覚えておられる方もおられるかと思う。日本は2012年以降の京都議定書の延長から自ら外れることとなり、2015年のパリ合意がこれに取って変わった。

「名古屋」は2010年に名古屋で開催された生物多様性に関する締約国会議の成果文書、開発途上国の微生物や動植物といった遺伝資源の取得やその利用から生ずる利益の配分について、途上国と先進国の間での激しい交渉の末に成立した。これを機に、2011年から2020年を、「生物多様性の10年」と位置付け、国際社会が協力して生態系保全に取り組むこととなった。

さて残る「横浜」「兵庫」「仙台」、これは、日本人にとっては切実な防災についての国連会議の成果文書である。

「地震・雷・火事・おやじ」、「災害は忘れた頃にやってくる」など、日本には災害のことわざや言い伝えがたくさんある。先進国といわれている国で、日本ほど自然災害に悩まされてきた国はない。梅雨と台風の豪雨による洪水や土砂災害、地震と津波、火山噴火、豪雪に雪崩。

西欧諸国は、アルプスより北では地震も火山もほとんどなく、ハリケーンが来ることもない。北米では、東海岸にはハリケーンがたまに来て、西海岸には地震と山火事があり、内陸部には竜巻が来る。ただし、あれだけ広い大陸で複数の災害に悩まされる場所は少ない。

日本は、このような不利な条件を克服する努力を先人が営々と積み重ねてくれたおかげで、今日の繁栄を手に入れてきた。

アジアや南米を見ると、日本と同様、経済発展の過程で度々自然災害に悩まされている国が多数ある。そうした国々に対して、日本は防災の様々な技術協力を進めてきた。同時に、自然災害への対応は多くの国にとって重要な課題であり、各国が防災のための知識や技術をもっと共有すると良いのではないかと考え、国連の場でも積極的に提案してきた。1994年には横浜で国連総会決議に基づく初めての国連防災会議が開催され、「防災のための横浜戦略」が採択された。

2004年12月インド洋津波により、23万人もの方々が亡くなった。その衝撃がさめやらぬ2005年1月に、阪神・淡路大震災から10年で見事に復興した神戸で第2回国連防災世界会議WCDRが開催され、「兵庫行動枠組HFA」が採択された。

2011年3月の東日本大震災で、日本が置かれた苛酷な条件を見せつけられ、約2万人もの犠牲者が出てしまった。他方、緊急地震速報、新幹線の緊急自動停止、建物の耐震補強などの効果を見ることは出来た。この悲劇の教訓と、事前の準備により災害被害を減らすことは可能だということを世界各国と共有するために、2015年3月、第3回国連防災世界会議が仙台で開催され、SFDRRが採択された。

2015年9月に決定されたSDGsは、ピコ太郎さんの広報メッセージの効果か、日本国内でかなり浸透している。横浜会議を準備し、兵庫会議を担当し、仙台会議の諮問委員を務めた日本人として、SFDRRと防災の重要性を、ピコ太郎さんに負けないよう各方面に喧伝して行きたい。




2019年2月
※役職等は対談当時のものです。