認証企業事例紹介

2050年の世界に貢献する会社を目指して不二製油グループ本社株式会社(大阪府泉佐野市)

不二製油グループ本社(株) 取締役兼上席執行役員 C“ESG”O

門田 隆司

不二製油グループは、植物性油脂や業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材などを手掛ける食品素材メーカー。1950年の設立以来、独自技術・独自製品の研究開発を進め、現在では15カ国にグローバル展開している。これまでに培った「人のために働く」というグループ憲法の精神のもと、事業を通じて人と地球の健康に貢献することを目指し、高度なESG経営に取り組んできた。「DBJ環境格付」において最高ランクを取得するなど、その先進的な活動は国内外でも高く評価されている。最高ESG経営責任者としてグループのESG経営を推進する門田隆司氏に、これまでの経緯と今後の展望を語っていただいた。

グループ憲法に定めた「人のために働く」の想い

今回の環境格付でもご評価させていただきましたが、ESG経営において貴社はまさしく日本のトップランナーだと感じます。その活動の根幹となっているものは何でしょうか?

不二製油には「グループ憲法」というものがあって、その中で4つの「バリュー」こそがまさに根幹となるものです。1つ目は「安全と品質、環境」で、これは創業以来ずっと実践してきたことで、特に環境政策には古くから注力してきました。
2つ目の「人のために働く」は実にシンプルですが、自分たちとお客様と社会、近江商人の言う「三方よし」の概念を言い換えたものです。弊社は一般的にB to Bの企業と位置づけられますが、社長の清水はつねに「B to B for C」だと言っています。最終顧客のことを考えずにモノなど売れないし、サステナブルにもならないと。
3つ目の「挑戦と革新」は、創業以来の成長の原動力。4つ目の「スピードとタイミング」は、今まさに実感していることですが、どんなに素晴らしいことでもタイミングを逃したら意味がない。だからスピード感を持ってやろうというものです。これら4つの指針が、私たちのESG経営を形成してきたと言えるでしょう。

「代替食品=サステナブルフーズ」

欧米に比べて、日本の企業ではサステナビリティへの取り組みが遅れていると言われます。

国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPPC)」で活躍されていた茨城大学の三村学長は「日本人は個々で見れば意識は高い」とおっしゃっています。欧米では「自然は克服するもの」という考えだけれど、日本では「人間社会と自然の融和」が根本思想にあるからだと。ところが政府や企業での制度やシステムが確立されていないから遅れた感じがするのであって、そこが追いつけば一気に進むだろうと。私もそのお考えに同感です。

しかし、様々な企業の方からお話をうかがっても、やはり「サステナビリティをどうビジネスにつなげていくか」という課題で立ち止まるケースが多いようです。

本来、ESGへの取り組みは企業価値を上げるためのものであって、慈善事業ではありません。ステークホルダーからは持続可能な社会の実現と同時に、企業としての事業継続性を求められます。多様なニーズに応える必要があり、私たちも多くの議論を重ねました。幸いこれまでの当社の歴史を振り返ると「代替食品=サステナブルフーズ」という、世界のサステナビリティに貢献できる技術があることを自覚するに至りました。
2017年に「PBFS(Plant-Based Food Solutions/植物性食による社会課題解決)」というコンセプトを打ち出し、植物性食品素材によって社会が直面する課題を解決することを宣言しました。2050年には世界の人口が100億人に迫り食糧危機が到来すると言われている中、それに対して自分たちには何ができるのか、またその時代に生き残る会社となるために何をすべきか、徹底的に議論して作り上げたものです。
現在、経営陣が海外で投資家や企業トップと話をすると、その9割はSDGsとESGについての話題になります。これらに取り組まない企業は、この先取引してもらえなくなるかもしれない、という危機感を持っています。今は儲からないからやらないと言っても、儲かるようになったときには手遅れとなりかねません。ESGへの取り組みというのは、先にやればアセットになるけれど、遅れてやらされてもコストにしかならない。私はそのようにとらえています。DBJさんをはじめ金融機関の後押しに期待したいと思います。

世界中の従業員と共にESG経営を推進したい

技術も含めて、サステナビリティを経営戦略と統合されている点が素晴らしいと感じます。どのような体制で臨まれているのでしょうか?

「CSRは経営そのもの」という考えに基づき、グループ全体でESG経営を推進しています。さらにそれを強化するため、2019年4月にC“ESG”Oが設置され、私がその任に就きました。配下にESG経営グループを設置して、グループとしてのCSRを推進する役割を担っています。
一方、取締役会直属の諮問機関として「ESG委員会」を設置し、委員長を私が務め一年毎の重点テーマをそこで選定しています。各テーマについてアクションを取る部署も決まっており、テーマの選定から具体的なアクションまで一貫体制になっています。社外の有識者をお招きして様々な視点を取り入れ、その発表も結果報告もすべて取締役会で行う仕組みにしています。

2018年度では主にどのような活動をされましたか?

一つは「環境ビジョン2030」の制定です。パリ協定の目標達成に貢献するためScience-Based Targetの考え方に基づいて策定しました。国内だけでなく海外の会社にも適用した統合ビジョンです。
もう一つは「グリーバンス(苦情処理)メカニズム」の運営開始です。パーム油は弊社の主原料の一つですが、生産現場での環境や人権問題が懸念されていて、2016年に「責任あるパーム油調達方針」を策定しました。それを実現するために世界中のサプライチェーンと連携する仕組みです。

日本でも海外でもしっかり浸透させていこうという試みですね。

CSRのチームが教育プランを立てて、社内外での様々なコミュニケーションを図っています。社内報で社長からSDGsについてのアイデアを世界中で募集したところ、200件以上のアイデアが集まりました。面白いことに環境問題で注目されているブラジルからの提案が一番多かった。一人ひとりの中に、意識はあるんだなと。こういった地道な取り組みを繰り返していけば、確実に理解が深まっていくと思います。

2050年からのバックキャスティング

今後、不二製油が注力していく取り組みは?

弊社の新しい技術の種づくりは、未来創造研究所という部門が担っています。サステナビリティに関する研究が大半を占めていて、やはりPBFSに力点が置かれています。現時点では肉や乳をはじめこれから不足するであろう様々な栄養源を代替食品でいかに供給していくのかが、大きなテーマとなります。弊社では2050年からのバックキャスティング調査をずっと行ってきましたが、2050年時点で世界の食糧は完全になくなりはしないようです。ただ、アフリカやアジアの一部では人口増に食糧が追いつかず、逆に欧米では人口が伸びないけれど食糧が増加するといった、食の偏在が顕著になる。ここにも切り込んでいかねばなりません。おいしくて健康的な食品を多くの方々に提供するのが我々のソリューションだからです。地球規模の様々な課題に、不二製油グループは果敢に挑んでいきたいと思います。

(聞き手:サステナビリティ企画部長 木村 晋)
※役職等は取材当時(2019年11月)のものです。