認証企業事例紹介

東日本大震災での被災を教訓に
全社を挙げて事業継続活動に取り組む株式会社 白謙蒲鉾店(宮城県石巻市)

1912年に鮮魚店として創業して今年で110年目を迎える(株)白謙蒲鉾店(本店・宮城県石巻市)は、笹かまぼこを中心とするかまぼこ製品の製造・販売を行う水産加工事業者だ。素材の品質に徹底してこだわる製品は、県内外で根強い人気を誇り、高い評価を得ている。

東日本大震災では市内3工場が津波被害に遭い、一時休業を余儀なくされたが、翌月には生産を再開するなど高い事業継続力を示すとともに、震災を教訓に自然災害ほかあらゆる緊急事態に対応し得る企業になるための取り組みを重ねている。その代表的事例が、事業継続マネジメントシステムの代表的な国際規格である「ISO22301:2012」の認証取得(2014年)、そして(株)日本政策投資銀行(DBJ)が実施する「DBJ BCM格付」最高ランクの取得(2015年、2016年)だ。

震災後の同社の積極的な事業継続活動への取り組みの内容や成果について、同社代表取締役社長・白出哲弥氏、同社常務取締役・白出雄太氏に聞いた(文中敬称略)。

人命の尊重を最優先に

白謙蒲鉾店本店

白謙蒲鉾店 本店

哲弥
東日本大震災では、石巻市内3つの製造工場と宮城県内の23店舗がすべて被災。特に、主力製造拠点の門脇工場は6メートルの浸水被害を受けました。本店工場は翌月に復旧し製造を再開。門脇工場も7月上旬には復旧して、何とかお中元の需要に間に合ったという状況でした。やれるかどうかわからないマイナスからの突貫での復旧でしたが、お客さまなどから「商品をまた食べたい」「頑張れ」など激励のメッセージをいただけたのは本当にありがたかったです。

事業継続活動のきっかけは東日本大震災です。とにかく人命の尊重を最優先に、また、次に新たな危機が起きた時にもスムーズに事業を継続できるように、2013年6月から全社を挙げて事業継続マネジメントシステム(BCMS)の構築に着手しました。
雄太
震災後も台風や豪雨、洪水などいろいろな災害が続き、また、原発事故の放射能の風評被害もあって、社員や取引先の皆さんも非常に不安を感じている状態でした。そうした不安を徹底的に解消するためにもBCMSが有効だと考えたのです。当時はISO9001という品質マネジメントシステムの国際規格を取っていたのですが、平時の品質の追求と有事の実効性向上の両方が強くなれば、地域の食の安全に一層寄与できるという想いもありました。
白謙蒲鉾店本店

白謙蒲鉾店 本店

自然災害以外のリスクにも備える

雄太
事業継続活動の中で特に役立ったのがワークショップ(演習)です。2019年には126回の演習を実施しました。回を重ねる中で、雨雲レーダーを見て出社の可否を判断したり、台風の進路予想を見ながら時差出勤したり、通勤距離が遠い社員は休日を変更するといった行動を各自が自発的に取ることが当たり前になっていきました。今では「人命を最優先する」という想いが皆に共有されて組織のカルチャーになっているように思います。
哲弥
防災・危機管理マニュアルも「津波編」「火災編」など災害別に、臨時スタッフ向け、社員向けなど立場別に応急対応Q&Aを作っています。難しく書いても不安は解消しないので、より理解しやすい見せ方、伝え方を意識し、漫画のように東北弁でわかりやすく翻訳して伝えています。
雄太
震災の教訓に基づく対策としては、たとえば、門脇工場に救助用ボートを用意したり、同工場内に新設した管理棟の最上階4階部分に避難所スペースを設けたりしています。津波に被災した門脇工場では50人ほどが取り残されたのですが、社員が釣船を竹の棒で漕いで救出に来てくれて、3日目に全員避難することができました。次に同じような災害に遭った時に備えて、まずは脱出用のボートを事前に準備しました。また、避難所スペースは、東日本大震災を上回る地震が起きた時でも暖かい部屋で待機できる場所を作ろうということで用意しました。

自然災害以外のリスクにも備えています。具体的には食品事故、情報漏洩、感染症などですが、たとえば感染症で言うと、2014年にISO22301を認証取得した際に感染症もリスクとして想定してBCP(事業継続計画)を制定したのですが、その時に新型インフルエンザ対策についても、いずれそうしたパンデミックは起きるだろうから事前に備えておいたほうがいいと考えて検討を進め、2016年に新型インフルエンザ等対策BCPを新たに制定しました。結果として、それが今回の新型コロナウイルス感染症に対する初動対応においても非常に役に立ちました。

門脇工場管理棟

新艇ボート組み立て作業風景

防災訓練時風景

次のテーマは健康経営

雄太
BCMS構築の過程では多くの面でDBJにサポートしていただきました。特に「BCM格付クラブ(注)」に参加してネットワークが築けたことが良かったと思います。年1回の会合には、多くの企業の危機管理の実務担当者や外部の専門家などが集まるので、第一人者の方々とお話しする機会を得るとともに、毎年、各社の事例を見習って、様々な先行的な対策を導入してきました。それが我々の先進的な取り組みにつながったことは確かです。
哲弥
足元ではさらに健康経営を意識した取り組みを進めています。これまでも従業員の健康には意識を傾けてきましたが、改めて健康経営としてスタートするにあたり、当社の取り組みレベルを客観的に評価して貰うため、2021年2月に、今度はDBJの健康経営格付を取得しました。雄太常務が中心となって今後の健康経営の在り方を明らかにし、従業員一人ひとりの意識向上を図ってきた点を高く評価して頂いた一方、格付取得のプロセスにおいてはこれまで気づくことのできなかった課題も見つかり、今後の指針につながりました。

今後も全社員が一丸となって、礼を以てお互いに感謝と思いやりの心を持ち、力を合わせて健康保持・増進に取り組み、生きがい、やりがい、楽しさを追求し、健康で長生きをテーマに取り組んでまいります。

(注)BCM格付クラブ:DBJのBCM格付を取得したお客さまを対象とし、会社規模、業種、地域の境界を越えた、危機管理の実務担当者をつなぐ日本初のプラットフォーム。

広報誌「季刊DBJ No.47」のインタビューをとりまとめたものです。
https://www.dbj.jp/co/info/quarterly.html

※役職等は取材当時のものです。