開発ストーリー

DBJ環境格付融資 開発担当者

(株)日本政策投資銀行
執行役員 産業調査本部副本部長

竹ケ原 啓介

社会問題に対峙してきた企業文化がESG投資にいち早く取り組むことへ
繋がった

金融機関であるDBJが、早くから環境金融に取り組んできた背景をお聞かせください。

大きな背景としては、DBJがもともと政策金融機関だったということがあります。我々の歴史そのものの話になりますが、原点は産業公害克服の時代にあります。当時は日本の企業の設備投資の約2割が公害防止投資という時代であり、日本開発銀行(当時)の年間の融資の2割がやはり公害防止関係のプログラム融資でした。金融を通じて社会的な課題の解決に取り組むという企業文化がもともとあったのです。
私が入行した頃は、地球温暖化をはじめ、移動排出源が問題とされる時代に入っていました。幸い私はそれぐらいのタイミングでドイツに行かせてもらい、環境がビジネスになるということを体感しました。
その頃ドイツでは、環境ビジネスはすでにしっかり定着しており、とりたてて「環境セクターだから」という特別扱いではなかったのです。むしろ環境という切り口では、個別企業の経営を環境という側面から評価して投資対象としての妥当性を判断しようとする動きが活発になっていたのが印象的でした。今でいう非財務的価値に着目した企業評価という発想に触れたのがこのタイミングです。

金融市場が社会問題を解決する役割を果たす

なぜ、金融機関が社会問題に取り組んできたのでしょうか。

日本には環境問題を統制的な方法で解決しようとしてきた歴史がありますが、問題が固定排出源から移動排出源へと移行する中で、政府による規制では効果がなくなってきました。環境税や課徴金、排出権取引といった経済的手法もなかなかうまくいかない中で、金融が環境問題に対して役割を果たせるのではないかという議論がありました。
金融は、お金を余らせている人から足りない人への融通という極めてシンプルな機能です。そこに環境配慮という発想はありません。しかし、資産価値を算定し、市場価格とのズレを見つけ出して利益を上げようと無数の投資家が虎視眈々とチャンスを狙っている金融市場は、使い方によっては環境保全の大きな武器にもなりえます。もし環境に配慮している企業の価値はそうでない企業よりも高いという認識が共有されれば、お金の流れが変わるからです。

具体的に、どのような考え方で取り組んでいったのでしょうか。

環境に優れた企業というのは、目配りがあちこちに効いているので様々なリスクに備えた対応をしています。たとえば、工場の環境汚染を放っておいたら、20年後に工場を閉じて現金化しようとしたときに、凄まじい浄化費用が発生してしまい、キャッシュにするつもりが、そのプロセスが立ち行かなくなってしまう。そういうことがないように対策をとっている企業はリスクマネジメントの意識が高く、結果的にデフォルト率(注1)が低いのではないかという仮説が立てられるわけです。そこをしっかり評価して、環境経営に優れた企業はリスクが低い企業だから、金利を下げてもおかしくないよねという理屈を組み立てて、これをプログラム化したのが「DBJ環境格付融資」です。企業側にとっては、それがインセンティブとなり経済合理性が働くのであれば、企業は環境配慮の方に軸足を移すわけです。

企業の成長戦略の一要因としての環境への取り組みを評価して
喜んでもらえた

環境格付をスタートした2004年当時、企業の反応はいかがでしたか?

等身大の企業を金融機関であるDBJが本当に見られるのかという疑問は、企業側にあるわけです。そこはこの組織の歴史とか、日頃から取引先と築いている信用関係のおかげで、ブレイクスルーできたんだと思います。当時は、レポートも環境報告書や社会環境報告書という時代です。それは企業のブランドを示すものではなく、「悪いことをしてませんレポート」で、内容も暗いのです。まずページをめくると、スモークがもくもく出ていたり、温暖化が進んでいるような絵から始まり、「当社の認識する著しい環境セグメントはこういうものです。その中で、われわれはこれだけ網羅的にやっています」という観点で書かれている。特に化学メーカーは当時、環境問題に関しては悪者扱いされていましたから、ヒアリングに行くと、「事業の中でいわゆる本来成長戦略要因である環境を自社の成長と同期化できますか」という設問など、ちゃんとアップサイドを見てくれるんだと驚かれることもありました。
当時、環境課題はダウンサイドリスクの話ばかりでしたので、企業のレスポンシブル・ケア(注2)の担当者が一生懸命環境会計を作っても、ベネフィットは計測できず、コストの積み上げになって、経営者に「金食い虫か」と怒られる。それが環境格付によって、自分たちの頑張りにより金利が下がったということをちゃんと言えるようになったという面があり、喜んでもらえたのです。初年度の件数は10件まで行けばいいと思っていたのが、実際には33件の実績があり、想像していた以上に企業にご好評をいただきました。経営者の方々は公害の歴史も踏まえていたし、京都議定書が京都の名を冠していることもあり、日本は環境問題に関して進んでいるという意識がありました。そういう中で自社がいいポジションにつけているかを検証したいとか、外部にそれを示したいという目的もあったようです。そのニーズともうまく合致して、初年度から潮目があったのだと思います。

対話を通じて企業の強みの源泉を引き出す

評価をする上で企業との対話を非常に重視されていますが、対話にこだわる理由は何ですか?

ひとつには、環境格付を始めた当時は今ほど情報の開示が充実しておらず、まずは話を聞かないとどうしようもないということがありました。ただ、始めてみて感じたのは、開示が充実しているように見えても、実際に蓋を開けてみると開示していない情報がたくさんあるということでした。そして実は、そこに企業の強みの源泉があったりもする。対話によって、投資家には見えない企業の強みや、その裏返しである不安要素を引き出して評価に反映できるのです。だから企業側の納得感も違います。自社のリスク認識のレベルはどれくらいなのか、実際に打てている手は他社と比べて十分なのかということを企業が知りたい中で、守秘義務契約を結んでひざ詰めで議論をするわけですから、こちらから伝えられる話もあれば、向こうから引き出せる話もあります。その上で評価に反映してフィードバックの中で返すことができれば、それが企業側への付加価値にもなります。

銀行の原点に立ち返るESG投資

銀行としての見るべき視点と企業側の見てほしい視点というのは重なる部分が大きいのでしょうか?

そうですね。昔から言われていたのは、特に中小企業ファイナンスの場合は、企業を知ろうとするときに、帳簿なんかを見てもしょうがないと。かつてのメインバンクは現場に行って、工場をちゃんと見るとか、社長の顔色を見るとかして、見えるものと見えないものも全部含めて、その企業に資金提供するのかどうかという判断をしてきました。それは、非財務情報そのものですよね。これは私たち銀行が今まで普通にやってきたことですから、ESG投資も、もう1回その原点に帰ればいいだけではないかと思うのです。

(注釈)
(注1)デフォルト率…一定の期間内に、貸出先からの返済が滞り債務不履行状態に陥る確率をパーセンテージであらわした数値
(注2)レスポンシブル・ケア…化学製品を製造、または取り扱う事業者が、化学物質の開発から製造・流通・消費・廃棄の全過程にわたる安全な取り扱いを推進する自主管理活動